***
ぶくぶく
水の中は、心地よくて安心できる。
ごぼごぼ
地上の雑音なんて聞こえない。この空間は、俺の世界。
でもさ。
知ってしまったんだ。
これ以上ないってぐらい、安心できてホッとする世界があるって。君に会うまでは知らなかった。
君の笑顔は、俺の幸せでもあるんです
(君の心に届かなくとも。)
あの子を初めて見た時の印象。それはそれは、ちっちゃな子。
(小さいというよりも、ちっちゃいと表現した方がしっくりくる)
そして、次に思ったのは、クルクルした大きな目。
(子犬みたいに、これはまた大きな瞳)
ああ、そうだ。君にまだ言ってないことだけど。本当は、君とお友達になろうとは、これっぽちも思てなかった。
(あの日の俺、今の俺も。サイテーな男だ)
「…町…るのか?おい、」
ふと名を呼ぶ声で、現実に引き戻される…直前に、不機嫌な声を隠さず頭を殴られる。
完璧に物思いに伏せていた水町は、殴られた個所を抑えながら悶え苦しむも、周りは笑っていた
いてて…と言いながら、辺りを見渡すと、見慣れた部室、先輩達や、水町を殴った張本人である筧(一人だけ笑ってないとこがいい証拠だ)達が、いた。
「水町。今なにしてるか、わかってんのか」
「……次の対戦相手の研究?」
「…分かってるんだったら、その携帯を鞄にしまえ」
説明してるキャプテンに、失礼だぞ。と言い切る筧は、目つきに反して、根っからの真面目君だ。
心底、残念そうな声をあげる水町に、周りは苦笑いをこぼす。
しかし、カバンの中へしまいながら、ブーイングの嵐をする水町に、筧からまたもや壮大に怒られてしまった。
あれから散々だったミーティングだったが、その後の部活は無くまだ明る時間帯。
水町は、今日中にある男の子にメールをし、駅近くのファストフード店で、約束を取り付けミーティングが、終われば颯爽と部室を出て行った。
部室から聞こえる怒鳴り声なんて、鼻歌をしながら走っていった今の水町には聞こえていない。
「てなことがあってさー。ちゃんと筧の言うこと聞いて、携帯をカバンにしまったのに。こんな仕打ち、無くない??」
ざわざわと、周りの話声が聞こえるなか水町の声は、はっきりと聞こえるぐらい大きい。
小さな子どものように、口を尖らせぶーぶーと文句を言いながらも今日、起きた出来事を待ち合わせ相手に話せば、笑われてしまった。
けれど、それが悪意を持った笑い方ではないことを、水町は知っている。
「ふふっ。なんか水町君らしいっていうか、目に浮かぶよ」
「…ちぇ、セナに笑われちった」
やっぱ話すんじゃなかった、と数分前の自分を恨んだって、どうしょうもないのだけれど。
でも、セナが笑っている。水町にとって、それだけで十分な収穫である。とても、現金な性格だと思いながらも、大きな口を開けバーガーをガブリと食べる。
「でも、そんなに、熱心に何見てたの?」
ジュースを飲みながらセナはある事を、思い出す。
すると、水町は目を丸くしたかと思うと、何故かだか嬉しそうに笑う姿に、いっそうセナは首をかしげる。
「ンー?知りたい?」
「うん。知りたい」
「ホントに?」
「うん。ホントのホント」
何度も繰り返されるそれに、セナは堪らなくクスクスと笑った。
その姿に、水町の心がフワフワと浮かぶ。
―あぁ、やっぱり楽しい。
――この子といると、全てが楽しくなる。
「それはね……秘密!」
「ええ…!?」
いっきに溜め焦らせた後のセナの反応は、驚き半分とがっかりな気持ちが半分だった。
やっぱり予想どうおりの反応で、それを予測してしまうほど、なんだか嬉しくて。
セナは、本当にかわいい。そこら辺にいる女子高生たちなんか、目じゃない。
(セナといると、あったかい気持ちになれるし、楽しいんだ。こんなにも。)
あの頃は、微塵も思わなかったけれど。
今振り返れば、傲慢だった過去の自分を叱ってやりたい。
いや、むしろセナに叱ってほしい。怒ってほしい。
それぐらい、自分が惨めで仕方ない。
ねぇ、セナ。
初めて君を見た時、『友達』になれない子だと思った。
オドオドしてて、怯えるその態度に、俺は腑に落ちなくて。
確かに、この身長もあるし、セナの性格考えれば、俺の性格は合わなかったかもしれない。
けれど俺は、寂しく感じてしまった。怯えるその瞳を見た瞬間、寂しさを覚えたんだ。
でもね、セナ。
「水町君?どうしたの?」
押し黙ってしまった水町を、セナは心配そうに顔を覗き込んできた。
―ああ、セナに心配させるなんて、俺ダメだな。
心配させまいとパッと満面な笑顔を向けると、セナもほっとしたように笑ってくれた。
―俺は、その笑顔にやられたんだ。
その心から笑った笑顔を見たときに、俺は心があったかくなったんだ。
そして、いつの間にか俺の携帯には、君の名前があって。
それから、毎日が楽しくって。セナにばっかメールして。
セナがきっと喜んでくれると、普段使わない頭で、いっぱい考えて、いろんなことをした。
そしたらね。君が、照れくさそうに笑って言ってくれたんだ。
『僕ね、こんなに楽しい友達となれて、嬉しい。毎日が、楽しいよ』
セナ、セナ。
俺もだよ。俺も、セナといる毎日が、楽しくて幸せなんだよ。
(これが恋だなんて、ちっとも知らなかったけれど。)
「セナ、実はさ…俺から重大な発表があるんだけど、聞いてくれる?」
「ん…いいよ?」
「あんね、実は俺、君のことがさ…」
(大好きすぎて、死にそうなんです。)
(え?え?)
(いったいどう責任とってくれんの?セナ)
.....END
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