闇が広がるとある屋敷の、とある部屋の天井裏に、二つの影。
一人の男が手に持ってる巻物を、目の前の青年に手渡す所であった。



「乱太郎、いいか。この密書は必ずや」
「山田先生、御心配なく。私の足は、早々に折れはしませんよ」
「ふ、そうだったな。では私は、他の六年生と共に足止めしてくる」
「はい、お気をつけて。」
「乱太郎もな。」


幸運を祈ると、言い残し消えた伝蔵に、乱太郎は笑みを浮かべる。
そして、瞬時に真剣な顔つきに変わり、下げていた布を鼻の位置まで上げ、乱太郎もその場から姿を消した。














「乱太郎!!」


木から木へと飛んでいると、自分の名を呼ぶ声の方へと視線を送ると、見知った顔だった。


「あれ??いさっくんじゃない!どうしたのさ!」
「他の奴らに、乱太郎の事を任せられてね」
「じゃ、こっちが有利的なんだ!」


同級の伊作の登場に、乱太郎はホッと胸を撫で下ろす。
しかし、クイナを背に隠しニヒルな笑いを浮かべる伊作に、乱太郎は気付かないままニコニコと、嬉しそうに笑っている。


「じゃ、このままいけば私達の勝ちだね」
「ああ、そうだな(その勝利は我々の物だがな)」


音も立てずにクイナを構える。
そして、振りかざした瞬間、乱太郎の姿が消え伊作は驚き、木の枝に留まり辺りを見渡す。


「あの小僧、何処に行きやっがった!?」
「いさっくんはそんな汚い言葉、言わないよ。知ってた?」
「な!?いつのまに!?」
「プロ忍者のくせに、動揺しまくり!しかも相手の情報、少ないまま変装しちゃダメじゃない」


いつの間にか背後に回っていた乱太郎に、伊作に変装していた忍は、驚き後ずさりをする。
それを見た乱太郎は、敵にも関わらず呆れたように説教をし始める。


「しかし、何故私が味方ではないと気付いた?」
「え?んー…こんな忍者、初めて見た」
「早く答えろ!!」
「もー、せっかちだね。いさっくんが、医療忍者って言えば分かるかな?」
「・・・はっ!」
「そ。普通、医療忍者って必ず仲間の所にいなければならないよね?」
「くっ…不覚!!」


悔しがる敵忍者に、乱太郎は苦笑いを浮かべるが、ふっと表情を固める。
目の前の敵はまだ善法寺伊作のままで、それが不服で堪らないのだ。


「ね、いい加減いさっくんの姿でいないで、本当の姿、見してよ。おじさん」
「…分かった。が、私は、おじさんではない」


ボンっと音をたてて現れた本物の敵に、乱太郎は態勢をとる。


「いい度胸だな。お前、名は?」
「…猪寺乱太郎。貴方は?」


敵わないと思ったのか、ふんっと鼻を鳴らし、敵も武器を構える。
そして口を開き、自分の名を名乗った。








「乱太郎、無事に合戦場に着いたかな?」


心配そうな声で言ったのは、ボロボロの体をした伊作だ。
敵と交戦してこうなったのならば、まだいい。いいのだが、彼は学園の中で不運委員長と呼ばれる青年だ。
戦う前から、敵の罠に何度もハマっては傷を作り、の繰り返しでここまで悲惨な事になったのだ。
同室の留三郎も被害をこうむったのか、所々に傷ができている。
他のメンバーはたいした怪我でもないのがいい証拠だ。


「あいつなら大丈夫だ、伊作。一度もヘマした事もないだろう」
「文次郎の言うとりだ。ほら、あれを見ろ」
「「ん?」」


伊作に分からないでもないと言う文次郎の傍で、仙蔵がある場所を指す。
そして、指した場所へと足をおろせば、一人があるものに近づく。



「…こいつ死んでんのか?」


ジッと見つめる視線の先には、忍び装束を着た敵が倒れていた。


「バカたれ!お前の目は節穴か!小平太!よく見ろ、死んではいないぞ」


先に、敵の状態を確認していたのは目の下にクマができた青年である。


「乱太郎が作った薬で、完全に延びてるね」
「さすがは、私の乱太郎だな」
「仙蔵、うちの子はお前のじゃないよ。分かってる?」
「もそもそ…」
「うん?なんだ、長次…喧嘩してる場合じゃないだってよ、皆…て誰も聞いてやしねぇ」


ギャンギャンと口論を始めた伊作と仙蔵。
ツンツンと気絶している敵を突く小平太とそれを眺める文次郎。
しかし、注意をしてもまったく無視のメンバーに長次は不気味に笑いだし、留三郎が焦りだす。


「お前らー!!何やってるんだ!!」
「あ、山田先生!いい所に。」
「乱太郎は、とっくに任務を終えとるちゅーに!」
「「「え、乱太郎もう終わってるんですか!?」」」


さっきまで騒いでいた六年達のハモリに、伝蔵は苦笑いを漏らす。
普段は、いがみ合っているくせに、乱太郎のことになると皆の息が合う。
もし乱太郎がいなければ、六年の結束はどうなっていたのだろうか。


(ま、今更そんなこと考えても仕方ないか)


既にいない六年達を確認した後、気絶していた敵の忍を叩き起こす。
しかし敵は、よっぽどの薬を盛られたのか一向に目を覚まさない。


「乱太郎の奴、いったいどれだけの薬を盛ったんだ?」


これじゃ何のために生け捕りにしたんだ。
と、深く溜息を吐くが、実技を叩き込んだのは伝蔵本人である為、何も言えない。
少しばかり自分を恨む伝蔵だった。









「らーんたろぉー!!帰ったぞー!!」
「あ、小平太。お帰りなさい」


無邪気な笑顔で、両手を広げ抱きついてくる小平太に、乱太郎も笑顔で出迎える。


「ただいま、乱太郎」
「うん。せんちゃん、怪我しなかった?」


さり気なく小平太を、乱太郎からはぎとり頭を優しく撫でる仙蔵。


「僕以外はね」
「わわ!?いさっくん、すごい包帯だよ!」


他の六年に比べ、ボロボロな所が目立つ伊作に驚く乱太郎。


「たく、保健委員会のくせに何やってるんだか」
「留!そんな事言わない!いっつも怪我してる留を手当してくれてるの、いさっくなんだよ?」
「す、すまない、乱太郎;;」


頬を膨らませ怒る乱太郎に、留三郎は慌てて頭を下げる。
大好きな子には、嫌われたくはないから。


「はは!留三郎、無様だな」
「もんじも人の事言えないからね」
「……すまん」


ライバルである留三郎を笑う文次郎を、あっさりと切る乱太郎に、すかさず謝る文次郎。
その光景に、伊作達は顔を合わせ、声を上げておおいに笑った。
あの二人をここまで、大人しくさせるのは乱太郎しかいない。


「もそもそ…」
「なんてなんて?」
「そろそろ帰って新一年を迎える準備しないと、だって。」


長次の小さな言葉に耳を傾ける小平太に、聞き耳をたててた乱太郎が教える。
その言葉に、文次郎と留三郎が食いついた。


「おーそうだったな」
「激し任務で、すっかり忘れていた」
「二人とも、どんだけなの;;」
「仕方ないさ、乱太郎。二人とも、鍛錬馬鹿なんだから。」
「もう、せんちゃんたら…;;」


グッグッと足を伸ばしながら走る準備をする文次郎と留三郎は、どっちが早く学園に帰れるかといいだし、乱太郎は困ったように笑うばかり。


「さ、帰って学園長に報告しないとな」
「ああ。そうだな」
「な、乱太郎!!おばちゃんの飯、一緒に食おうな!!」
「うん!」


まだ橙が残る夕焼けを背に、全員が一斉に走り出した。




新たな始まり
(なぁなぁ)
(何だ小平太)
(もう私達、六年なんだな)
(ああ、そうだな。それがどうした?)
(…もう残り少ないんだな)
(小平太……)
(私な、乱太郎がいるこのメンバーが好きだ)
(小平太…!私も小平太がいるメンバーでよかった!!)
(((おいおい!メッチャいい話かと思ったら、乱太郎といちゃつきたいだけか!!!)))







第一話・完
2012/06/26アップ
2013/05/08修正

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