※死を思わせる文章と、暴力的・血の表現があります。それでもOkという方のみお進み下さい。












 


ザァーザァーと降る雨。
ここ数日、太陽を見ていない。


それに加え、愛しいあの子に会えていない。



ああ、どうにかなりそうだ。
あの子を感じていないと自分が自分でなくなる。










鬼との約束
(あの子の声、匂い、存在も感じないんだ)









三人分の影が、木々の間を駆けて行った。
そしてある場所で止まった。


「おい、誰か止めないのか」


文次郎、仙蔵、長次が一人の数人のプロ忍者を相手している一人の忍たまを見ていた。
別段、苦戦してるわけではないが、文次郎がその戦いに見兼ねて他の2人に声をかける。
その言葉に、自分自身が入ってないのは、目の前の光景があまりにも悲惨であるため、躊躇してしまう。


「私に振るな」
「それじゃ、同室の長次」
「…俺までが巻き添え喰らう」


長次の言葉が、重苦しく感じるのは文次郎だけではなく、仙蔵も感じていた。
三人の視線の先には、数人のプロ忍者が肉の塊が転がっていた。


「(プライドもくそもねぇな…)」


たった一人の忍たまに殺され、プロ忍者としての威厳もプライドもズタズタにされたのは目に見えている。
こんな現状を作った張本人は、今までの性格からして考えられないほどの、殺気をまとっている。


「だよな…ああなった小平太は、誰にも止められんか」


普段は、底なしの体力と明るさで委員会メンバーを巻き込みながらも、下級生から相談事が絶えない頼れる先輩である。
そんな先輩である七松小平太の豹変ぶりは、文次郎達でさえも、信じられないほどに変わってしまったのだ。


「(学園一忍者してる俺でさえ、ここまでは出来ない)」


いくら実践を積もうが、いくらプロ忍に近いと言われようが、所詮、忍者のたまご止まり。
忍術学園の授業で「殺し」は教わらない。否、殺しを目的とした学校では無いから、なおさらである。



「3日で終わるはずだった任務が、5日もかかっているしな」


仙蔵の言葉に、はっと現実に引き戻される文次郎。


「……プロ忍の奇襲が予想外だったな」


ポツリと呟く長次に、二人は頷く。



「…小平太が相手してる内に、私たちは任務を果たすぞ」



また仙蔵の言葉が、合図かのように姿を消した三人だった。










ザシュ――…!!




「はぁ…はぁ…(なんだこの餓鬼…!ホントに忍たまか!?)」


ぼたぼたと肩から流れる血を手で押さえ、身構える一人の敵忍者。
その視線の先には、所々怪我をしてるものの、体力が余っているのか小平太は好戦的な笑顔で武器を構えている。
敵はちらりと、小平太の後ろを見る。
もう動かない自分の部下達は、殺しのプロだ。
こんな子供にやられてしまった事が、いまだに信じられない。


「(忍たまの上級生である六年の任務を妨害をしろと言われたが、まさか部隊が壊滅状態になるとは…)」


なぜこうなったのか分からない。
上からの命令は、ただこの忍たま達を足止めをする事である。


「おじさん、なんでこうなったかって顔しているな」
「な!?」
「忍者たるもの、何事にも冷静でいないといけないぞ」


プロ忍者なら、なおさらな。
指摘され動揺する敵に、小平太は嘲笑った。
その姿に、敵は切れた。
長年プロとして生きてきたこの自分を、見下し笑ったのだ。
しかも、こんな子供に、だ。


「ほざけ…!この俺が、お前みたいな餓鬼に負け…っ!!?」


瞬間、敵は喉に違和感を感じた。
ひんやりとした物が当たってると感じた次の瞬間、視界に血しぶきが広がり、敵はようやく理解した。
だが、もう遅い。ぐらりと世界が揺れそのまま倒れ込んだ。





「さっきの答え、教えようか?」




それはね、あいつがあの子の命を狙ったからさ。




「て、もう聞こえないか」



胴体から離れた生首を交互に見ながら、こう平太は呟いた。
あいつとは無関係だったが、恨むのならあいつを恨めと、理不尽な事を思う小平太。



「ま、後は仙蔵達に任せて、私は一足先に帰るとするか」



ぽつぽつ、と降る小雨。
あの日もこんな小雨だったな。
そしてあの子と交わした約束を、私は早速破ってしまった。


どうしようか、なんて考えたが、どうしようもなくて。
殺してしまったのは仕方ない。
後で、いっぱい乱太郎に謝ろう。
謝って、そしてたくさん抱きしめてやるんだ。

きっと、俺の為に泣いてくれるあの子の為に。



ポツリポツリと雨が降る。
雨に流されていく血は、もう匂わない。



―でも、これで乱太郎に会える。
――愛しい愛しい私の乱太郎に。










******




日が沈み、辺りに静けさが広がっていた。六年の長屋のある場所だけを除いては。





「乱太郎?」


くるくると包帯を巻いていた手が止まっている事に、伊作は気付き名を呼んだ。
が、しかし心ここにあらずといった感じで、無反応だった。


「…乱太郎手が止まってるよ?」


今日も、伊作の部屋で包帯を巻いていた乱太郎だったが、ずっとこの調子だ。
さすがに心配になった伊作は、再度また声をかける。


「あ、す、すみません!」
「や、謝らなくていいんだ」


開けられた障子の向こうを見ていた乱太郎は、我に返る。
親に怒られた子のように慌て謝る乱太郎に、伊作は気にしなくていいと優しく頭を撫でる。
その大きな手と温もりに乱太郎は、安堵したのかほにゃりと笑った。


「だが、あいつらも不運だな。三日以内で終わるはずだった任務が長引くなんて」
「だよね…乱太郎は、小平太と町まで遊びに行く予定だったんでしょ?」
「そうなんですけど、仕方ないです」


笑顔でこたえる乱太郎だったが、二人からしたら無理に笑ってるようにうつった。


「小平太は、ホント馬鹿だよね」
「伊作、もっと言うなら根っからのお馬鹿もんだ」
「お二人とも!小平太先輩はそんな御方ではありません!!」
「ら、乱太郎?」


さっきまでしょんぼりしていた乱太郎が、いきなり伊作と留三郎の話の間に入ってきた。
しかも怒り気味できたものだから、驚きである。


「小平太先輩は、馬鹿でも体力馬鹿なんです!!」
「・・・・・・・・・・・いやいや、怒る所そこ?」
「はい!!」
「ぶっ!あははは!」
「留三郎、笑いすぎっ…!」
「お前こそっ!くくっ…!」


一瞬の沈黙のうち、伊作がポカンとした顔で突っ込む。
そして、元気良く返事をした乱太郎に、留三郎は思わず、吹いて笑ってしまった。
そんなに笑ったら、乱太郎が可哀相だと言うが、出遅れて笑う伊作達に、訳も分からず乱太郎は首を傾げる。


「はぁー…笑った」
「しかし、天然でこの発言は笑えるな」
「私、そんな変な事言いました??」
「ん、そんな事はないけど、乱太郎は言う時は言うんだなって思っただけだよ」
「乱太郎にも言われるほど、大馬鹿だったとはな」


しゅんとする可愛い乱太郎に、ごめんと言いながら、頭を撫でる伊作。
二人が大笑いした要因が、自分自身にあると知らない乱太郎はまた首を傾げるしかできなかった。


「ん・・・?」
「どうし・・・あ、」
「??」


ふと何かを感じ取った留三郎が、外を見る。
何事かと思った伊作だったが、伊作も何かを感じ取り、深い溜息を吐く。


「乱太郎、体力お馬鹿さんが、帰って来たみたいだよ」
「え、ホントですか!?」
「ああ、迎いに行って来い」


まだまだ幼いこの子には、感じ取れない気配を伊作達は感じ取り、乱太郎の恋人である彼が帰って来たのだ。
そして「いってきます!」と元気よく、しかも嬉しそうに走っていった乱太郎を見送る。


ふと、外から聞こえる雨の音に、留三郎はある事を思い出した。



「あの日もこんな雨だったな」
「…思い出したくもないよ、あの出来事」
「……すまん。ただもしかしたら。」
「やめて。もしもなんてない。乱太郎がいなくなるなんて、ない」


そう言いきった伊作だったが、とても苦しそうな表情で。
留三郎は、ただ静かに目を閉じて「すまない」と静かに呟いた。







あの日、あの時、全ての者が驚き、一時期、学園とは思えない空気が漂っていた。




小平太が、返り血を浴びて帰ってきたのだから。
しかも腕の中には、乱太郎の姿があった。


教師が引き離そうとしたが、小平太の威嚇で引き離せず、むしろ近づく者全てに斬りかかる為、乱太郎も巻き込んで落ち着くまで地下牢に幽閉したのだ。





(あれは、俺達だけでなく、学園全体が思い出したくはない産物)
(仙蔵からの一報では、また殺めたと書いてあった)
(…何も起きなければいいのだが。)




その願いが叶うはずがないと思いながらも、願わずにはいられない。












前半完

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