ガブリっ!
「ふっ、ギャー!!?」
首に痛みが走り、いっきに覚醒する。
「…色気が無いぞ、乱太郎」
「え?え?て、また噛んだんですか!!」
私の首を!!
くっきりと残る歯形。白くて細い首に似つかわしくないそれに、乱太郎は嘆いた。
しかし、歯形を残した本人はただ満足そうに笑うだけで、頬を膨らます乱太郎をじっと見つめる。
「部屋で寝てたお前が悪い」
「そんな事言ったって…こんな仕打ちはないでしょぉ」
「悪いもんは悪い」
「なんで貴方はいつも…」
「らんたろう」
「先輩…?」
「会いたかった、ずっと…」
ふと、ぎゅうと小さな乱太郎の体を抱きしめる。
「お前の声を聞きたかった」
「………先輩」
「お前の匂いを嗅ぎたかった」
「……先輩」
「お前の体温を感じたかった」
「…小平太先輩」
「なんだ?乱太郎」
「それは、私も同じです」
にこりと照れくさそうに笑う乱太郎に、小平太は唇にかみついた。
淡いピンク色の唇に。
「んぅ、はぁ…ん、ん…」
いきなりの接吻(いきなりでしかも噛みつくような)に驚く乱太郎だが、一生懸命、応える姿がとても愛しい。
「(ああ…乱太郎。私の乱太郎)」
この五日間、どれだけ我慢しただろうか。
(あいつらさえ出てきさえしなければ、今頃、俺と乱太郎は城下町に行ってたのに。)
(すべて台無しだ)
鉢屋三郎の行動が、全てを狂わせた。
あいつの処分は、学園長と先生方がお決めになるだろう。
「(もし、も…他の五年もグルだったら、殺していた)」
何故、三郎の計画が分かったのか。
それは、あの任務で学園を発つ前に、雷蔵達が知らせに来てくれたのだ。
自分達では、もう手に負えないのだと…。
それで、伊作達が進んで残ってくれたのだ。
「はぁ・・・ん、せんぱい・・」
「名前」
「こへい、たさん」
「ん…、」
「私、本当は楽しみだったんです。先輩と城下町に行く事」
「約束守れなくてすまない」
「謝らないで下さい。長引いた理由は分からないけど、こうして小平太さんに会えて嬉しい」
「っ乱太郎…!」
あぁ、なんて愛しい子だろうか。
さっきまでの醜い感情が消え去っていく。
ぎゅうと抱きしめてやれば苦しそうに声を上げる。
しかし、その顔はなんだか楽しそうで。
「小平太さん、苦しいぃ~」
「すまんすまん。…なぁ乱太郎は、あの約束覚えてるか?」
「約束…ええ、覚えてますよ」
あの日もこんな雨でしたねぇ、と外を眺める乱太郎の横顔は10才とは思えないほど、大人びていた。
「それが、今日なんですね」
「ああ、今日だ」
「…分かりました」
「いいのか?」
「はい!あの時から、私は覚悟を決めてましたから」
”だから、怖いものなんてないですよ”
その言葉に、にやりと笑った小平太。
「それでこそ俺の乱太郎だ!」
乱太郎を腕に抱えたまま、二人は闇の中へと消えた。
――後日、学園で騒ぎが起きた。
七松小平太と猪名寺乱太郎がいなくなったと。
全ての学年、教師、敵であるはずのドク忍やタソガレトキ軍などが、捜索にかかっていた。
唯一、六年生だけが、冷静だった。
「まさか本当にやるとはな」
「…何処捜したって見つからない」
「あいつらの約束は、救われはしない、な」
「あまりにも悲しすぎるよ」
「それがあいつらの約束だからな」
―――人をまた殺めたのならば、死をもって償う。
(約束というよりも、それはまるで呪いの様なことだま)
後編完
「乱太郎、私は優しくはない。人を殺してしまうほどの鬼だ」
(同級も先生方でさえも知らない。私が、人殺しだった事を。)
「学園とい場所が心地よくて、同級と馬鹿騒ぎするのも楽しくて。」
(だから、ずっと隠し通してきたんだ。今の今まで…)
「乱太郎、お前に出逢ってから、もう隠しきれなくなってしまった」
(お前を愛してしまった代償は、あまりにも軽すぎたよ)
「お前とならば、何処までもいけるんだ」
それがたとえ疑獄の果てでも。
「私も貴方とならば何処へだって行ける覚悟はあるのですよ」
2012/07/13
修正2013/4/22
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