1.5

「ねぇ!ねぇ!本庄君!」
「あの帝国に転校するって本当!?」



女性特有の高い声に、鷹は眉をひそめ、不機嫌さを表す。
しかしながら、表情に乏しい鷹の変化にまわりの女子生徒達は気付かないまま、思い思いの言葉を口にする。
やれ「本庄君は凄い」だの「やっぱりここの馬鹿な男子と違う」と、口々に言う彼女達は心底、五月蝿く目障りだった。

パタン―…

読んでいた本を閉じた音に、あれほど騒いでいた女子生徒達の視線が鷹に注がれる。
その視線に対してなのか、軽く溜息を吐く。そして、視線を上げれば女子生徒の頬が赤くなる。
そんなものは興味はないとばかりに、鷹は席を立ち上がり周りにいつの間にか集まっていた沢山の女子をかき分け、教室を出て行った。


「キャ~!!何あれ!?ちょーカッコいいんですけど!!?」
「あの鋭い視線、堪んない!!」
「無愛想な所が、また堪んないのよねぇ~!!」
「分かる分かる!」


姿が見えなくなった途端に騒ぎだす女子達に、他の男子達は深く恨めしさ半分と羨ましさ半分の深~い溜息を吐く。
何故あんな無愛想な男を好きになるなど、女子の感覚は分からない。と大半の男子は思ったとか。
クラスの男子がそう思ってるとは知らず、鷹は幼馴染のクラスへと足早に向かっていた。


「鷹君!」


声は高いが、さっきの女子達とは違う控えめで、可愛らしい声。
聞き間違えるはずもないあの子の声。


「セナ、」


振り向くと、腰まである長い髪を靡かせ小走りで鷹の元へ駆け寄る幼馴染の姿…に、頬を染める男子達の顔が鷹の視界に入った。
綺麗な顔立ちが、みるみる不機嫌になっていきセナが一瞬、驚いたように目を丸くし首を傾げる。


「鷹君??どうしたの??」
「…いや、君の周りに悪い虫がたかってたから、つい…」
「え、うそ!?どこどこ!?どこに虫がいるの!?」


鷹の一言にサッと顔が蒼くなる。それを見た鷹はしまったといった顔をしたが、すでに遅かった。
するとセナは一人パニクリ自分の服に、虫が付いてないか手で払い始めた姿は、可愛らしいが鷹は止めに入る。


「言い方が悪かった。」
「え?どうゆこと??」
「・・・いや気にしなくていい。それよりもセナ。もしかして、探し回ってた?」
「うん!早くHR終わったから、鷹君の教室に行ったらいなくて…」


困ったように眉をへの字に曲げて笑うセナに、鷹は申し訳なさが溢れ出してくる。


「セナ、ごめん…こんなに走らせるぐらいだったら、待っとけばよかった」


あんな騒がしい教室はごめんだが、セナを思えば苦ではない。
しゅんと落ち込む鷹姿が、まるで親に叱られた小さな子どものようで思わず笑みがこぼれてしまう。


「ううん、いいの。鷹君見つかったから、気にしないで。ね?」
「…ん」


なんてことはないと、ふにゃリと笑うセナの笑顔にモヤモヤとした気持ちが全て消えていく。
そんな気持ちで鷹は頷けば、セナは「よしよし」と満足したようにまた笑った





「チッ…あの本庄の息子だからって生意気なんだよ」
「あの帝国に行ったって、すぐ潰れる落ちだぜ」
「女とつるんじゃって、俺達への当て付けかよ」




一部始終を見ていた男子生徒達の言葉にセナの顔が凍りつく。
が、鷹の一睨みに男子生徒達はビクッと肩を震わせ、その場を足早に去って行った。


「た、鷹く、」


今にも泣き出しそうな顔で、鷹を見上げれば視界が暗闇に包まれた。
しかし柔らかい匂いと暖かい温もりを感じたセナは、抱きしめられたのだと瞬時に分かった。


「セナが気にすることなんて何もないよ」
「でも、」
「でも、じゃない。そんな辛い顔しないで、セナ」


(どうか笑って。)


「俺なんかの為に、そんな顔しないで。」


(あの愛らしい笑顔で。)


「…か、…ないよ」
「え?」
「なんか、じゃないよ!」


腕の中で震えるセナに、鷹は体を離す。
するとセナここぞとばかりに鷹を、キッと睨む。


「僕は、鷹君が鷹君だから気にするしスゴイ心配だよ?」



いつも貴方は素知らぬ顔でいるけれど。
(それはきっと寂しさに似たもの)
そして抗っても仕方ないと貴方の心は諦める事を覚えてしまった。
(いったい何のために諦めてしまったの?)




「もし、もしも立場が逆だったら?僕の事心配じゃない?」



僕はこんなにも心配してる。
どうしたら貴方に伝わるのだろか、この気持ち。



「うん。きっとセナと同じこと思う。」
「だったら、どうして…」
「君の言ってる事、分かる…けど、」
「けど?」
「けど、君がいるってわかった時、なんだか気持が楽になったんだ」
「…何で楽になったの?」
「うん、君だけが俺を見てくれるから。」




俺をち『本庄鷹』としてちゃんと見てくれる。
あの『本庄勝の息子』としてではなく。




「それだけで、俺は十分だから。」
「鷹君…」
「それに、君も一緒に帝国に行くんだから何も心配はない」


セナの頬に触れ、鷹は微笑んだ。


「君の存在で、数え切れないほど救われたのセナは知らないだろう?」






(そんなの僕だって。いったいどれだけ鷹くんに救われたか知らないくせに。)








「それじゃ、家に帰って準備しないとな」
「…うん、そうだね!でも、うまくいけるか心配だなぁ」
「俺とセナなら心配はないよ」
「頼りにしてますよ?」
「ン、任せて…セナの為だったら何でもするから。」








そして、鷹は野球も中学も未練もなく離れて行った。
そして、セナも迷うことなく鷹と共に飛び立って行った。

それはお互いの存在が常にあると知っているから、何も怖くはないだと。
友人と離れたって、家族と離れたって、知らない土地に行ったって、お互いがいれば何も怖くはない。













―オマケ―

「やぁ!君があの俊足の小早川セナか!俺は、大和猛だ。よろしく!」
「よ、よろしくお願いします」
「ははは!そんなに謙虚にならなくていいよ」
「それがこの子なんだから、君の勝手を押しつけないでよ」
「ん?そういうつもりはなかったが、君は本庄鷹鷹だね!よろしく!!」
「………よろしく」


ああ、なんだろか。
こいつの強引さはともかく何だか癪に障る。
いや、ていうよりも。


「いつまでセナの手を握ってるんだ」
「個人の自由じゃないか、な?セナ君」
「だから、勝手に自分の考えをセナに押し付けるな」
「ちょ、鷹君;;(こんな強気な鷹くん初めて見た;;)」
「はは!鷹は手厳しいんだな」
「ふ、二人とも初対面で喧嘩はしないで下さい~;;」


帝国へ転校しアメフト見学に来た二人だったが、大和の歓迎にセナは戸惑いを示す。
そして大和のセナへの馴れ馴れしさに鷹は不快感を示すも、それに大和は気付かない。






「ここは6軍あるが、君達ならすぐに1軍に上がれるよ。楽しみにしてるよ」
「ああ、俺も楽しみにしてる」






満面の笑顔とは反対に差し出された手を、鷹は無表情に手を握り返す。
けれど、その瞳は静かに闘士を燃やしていたのを大和は見逃さなかった。





そしてセナは、大和の爽やかな笑顔よりも今日の強気な鷹に興味津々だったのは、ここだけの話である。
















END...

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