―――お前が犯した罪は、いくら生まれ変わっても消えはしない。
それを言ったのは誰だったか。
もう名前どころか顔も思い出せない。
いや違う。
思い出せないのではない。
それ以前に、その記憶が自分の物だとは思えないからだ。
「伊作」
「んー?なんだい、留さん」
教科書とノートを広げ、勉学に勤しむ伊作に小学校からの腐れ縁である留三郎に、名を呼ばれる。
返事はしつつも、教科書から目を離さないのは、お互い様か。
「前から気になってたんだが、最近お前、変だよな」
「何処が、どういう風にだい?」
「お前なぁ…」
まったくもって興味を示さない様な態度が癪に障ったのか、留三郎はいらついた顔で振り向く。
「そんな態度してっから、乱が困ってるんだろうが。」
「…何で、そこで乱が出てくるのさ」
「いや、だっておめぇ、ここ最近お前の様子が変だって、心配してたから相談に乗ってたんだよ」
「留さんには関係ないよ。これは僕の問題でもあるんだから」
「そうやって、自分で抱えてるから恋人である乱が心配するんだろうが!」
「乱に迷惑かけたくないから、自分一人で抱えてるんだ!それぐらい解れよ!」
「っ!?」
ダンっ!と、怒り任せに机を叩いた伊作に、留三郎は驚き、目を丸くする。
しかし、叩いた本にも驚いてるのか、荒い息をしながら、あ然としていた。
「…ごめん、外行って頭冷やしてくる」
「あ、あぁ。分かった」
「本当にごめん。こんなつもりじゃなっかったんだけど。」
「?いや、気にするな」
伊作の異変に戸惑いながらも、後ろ姿を見送る。
「(…あ?)」
ふと、留三郎の脳裏にある風景が横切った。
『何故ですか、何故こんな事に…』
『お前がした事は、許される事じゃない』
『俺は、お前を一生、憎む…!たとえこの身が朽ちようが、お前を恨むからな!』
『貴様あぁ!!この場で、腹を切れえぇえ!!!』
この記憶は。
この感情は。
この殺意は。
何故、忘れていたのだろうか。
「伊作」
「今度は何?」
あれだけ振り向かなかった伊作が振り返ると、今までに見たこともない憎悪に満ちた留三郎の姿があった。
「お前が、乱太郎を殺したのか」
生まれ変わりのなり果ては。
(何百年と詰まった、この恨みも憎悪も殺意も全てこの時の為のもの)
―――
何度生まれ変わっても同じ過ちを犯すのは誰だ。
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