「あー、つまんねぇ」


心底つまらない、と言うのは不破雷蔵…ではなく雷蔵の顔を拝借している鉢屋三郎である。
今日は待ちに待った休日なのだが、何もすることが無い三郎は、自室で書物を広げるも、あまり集中力がよろしくない為、すぐに放り投げてしまった。
ここに図書委員会の委員長がいたならば、三郎の頭に何枚かの図書カードが刺さっていたかもしれない。


「毎日、同じことの繰り返しで、大した実習もないしな」


ゴロリと寝込んだ三郎の隣で、本を広げていた兵助も書物を読み飽きたのか、はぁ…と大きな溜息を吐く。


「確かに。肝心の一年は組は、実習で数日、学園には帰ってこないから、乱太郎には会えないし。」
「癒しがいない学園なんて…豆腐がこの世にないのと同じだ」


約二日前に、学園長の思いつきで一年は組が、実習という名のおつかいに行っているのだ。
いつも元気な一年は組がいない学園は、なんだか寂しく感じるのは、気のせいではない。
三郎は何かと悪戯を仕掛けたり、平助もあまり関わりはないが、元気な一年は組を見るのが好きである。
しかしそれ以上に愛しい子、自分の否、学園内のアイドル、乱太郎がいない事に二人は、まったくもってつまらないのである。


「あー!!もー!!乱太郎の顔見たい!!声聞きたい!!」
「乱太郎と、豆腐語りたい!!」
「・・・絶対つまらないって心底思うぞ、それ」
「え、なんで?」
「そんな驚愕な顔すんなよ!誰もが、皆豆腐好きだと思うなよ!!?」


キョトンとする兵助に思わずツッコミが入る。
誰もが豆腐好きとは限らないし、彼は豆腐小僧と呼ばれるほどの知識もってるのだから、なおさらである。


「乱太郎も、豆腐小僧になったらどうすんだよ。豆腐馬鹿め」
「そうなったら、俺、萌死ぬ」
「いっそうの事、悶え死んでくれ」


ポワンとした顔で、想像する兵助に三郎は殴り出したい衝動に駆られるが、そこは何とか抑え込む。


「はぁ・・・でも雷蔵、いいなぁ」
「・・・だよなぁ」
「羨ましいってありゃしない」


ふと何かを思い出したかのように言う呑気な兵助に、殺伐としたオーラを放っていた三郎は脱力する。
そして兵助の言葉に、三郎はうんうんと頷く。


「今回の実習で、上級生の中で好きな先輩を一人連れて行ってもいいっていう御発案だったけど・・・」
「一年は組全員一致での雷蔵だったからね」


皆が雷蔵を迎いに来た時、本人はビックリして「僕なんかでいいのかい?」って、照れて笑う雷蔵の姿は、記憶に新しい。
そんな雷蔵に「”なんか”なんて言わないで下さい!先輩がいいからこうして皆で来てるんです!」と満面な笑顔で言ってくれたのは、雷蔵が一番愛してやまない乱太郎だった。
しかも話し合いで、いろんな先輩の名が出たが、乱太郎が迷わずに「雷蔵先輩がいいです!」と発言すれば、皆が一斉に賛同したもんだから驚きだ。
もしも、乱太郎が雷蔵ではなく三郎がいいと言っても、は組全員ほぼ却下であろう。
それはなぜか。
乱太郎に対して、優しい先輩か、変態な先輩か、という基準があるのだ。


「て言うぐらい変態だよね、三郎は。」
「乱太郎限定な」
「いや、そんな自慢げに言われましても・・・」


ふふん!と、鼻息を荒くしドヤ顔する三郎に、さすがの兵助もドン引きである。
言いだしたのは自分たが、こういう時の三郎は正直キモい。


「そんなんだから、雷蔵の怒り買うんだよ」
「そーいうお前こそ。乱太郎に豆腐をぶっかけた挙げ句に、襲って雷蔵に半殺しにあったじゃん」
「未遂に終わったんだよ。それはそうと、乱太郎がお風呂に入ってる間、袴を嗅いでたよね。それもほぼ毎日。」
「嗅がねぇとその一日の疲れが取れないんだよ」
「自覚が無いストーカーは、怖いな」
「私は断じてストーカーでは無い!それに、兵助も乱太郎が風呂に入ってる時だって、覗き見してんじゃんか!」
「俺は純粋な心を持ってるから出来るんだ!!」
「それは、私だって同じだ!!」


相手がこう言えば自分も言い返す。
傍から見ればなんとも痛々しいこの上ないが、同級達からすれば当たり前の会話である(当り前だと思うほど日常茶飯事なんだよねby勘右衛門)
そして、乱太郎に不埒な事が起きれば、雷蔵の死刑が待っているのも当たり前になっている(慣れって怖いよなby八左ヱ門)


「君ら、死ぬ覚悟できてるのかな?」


地を這うような声に、だらだらと冷や汗をかき、後ろから放たれる鋭い殺気に、二人は体を震わせる。


「っ;;ら、雷蔵さん?」
「何かな?三郎くん」
「え―と、今は、よい子の皆とおつかいに行ってるのでは?」
「うん、意外に早く終わったから、こうして今ここにいるんだよ☆」
「さ、さいですか;;」


ニコニコと笑う姿は、温和で優しいいつもの雷蔵なのだが、笑顔が怖い。
纏っているオーラだって、殺気が含まれているのだから、三郎は顔面蒼白で今にでも逃げ出しそうだ。


「それじゃ乱太郎も帰ってきてるんだな」
「兵助さん?」


殺伐とした空気の中、またもや呑気な声に、三郎は思わずさん付けをしてしまった。


「今から会いに行ってくる!」


何だこのKYな男は。
さすがの雷蔵も、すぐには言葉が出なかったらしく、乱太郎の元へと走っていく豆腐小僧を見送ってしまっている。


「て、あ!兵助!!」
「ふぐ!!?」


はっと正気に戻った雷蔵が、すかさず兵助の首根っこを掴む。


「乱太郎に、誰が会わせるとでも?」
「雷蔵にはそんな権限ないじゃないか」
「あるから言ってるんだ!阿保!」


何処までも我の道に行く兵助に、怒りが膨らんでいく。
そんなやり取りを見まもっていた三郎は、どう逃げて乱太郎に会えるか考えていた。
しかし、その考えを見抜いていた雷蔵は、兵助に怒りながらもこちらに、睨みを利かせている。



「二人の行動について、新たな発言があったわけだから、二人とも分かるよね?」


散々、お互いの行動を暴露しあってたのを、雷蔵は聞いてたらしい。
何処に隠し持っていた刀を出す雷蔵に、三郎とさすがにヤバいと感じた兵助も、サッと顔を青くする。


「僕の大事な乱太郎を汚した罪は重いからね」




覚悟しなよ?






「「…っ;;;;」」




そして悲痛な悲鳴が、学園中に響いた。











日常茶飯事
「?何か叫び声が、したような・・・?」
「気のせいだよ、乱太郎。あ、こっちの饅頭も美味いぞ」
「わぁ、ありがとうございます♪尾浜先輩!」
「どーいたしまして(何だ、この小動物!可愛すぎるだろ!)」
「尾浜先輩??」
「ほらほら、餡子がついてるぞ」
「あっ…す、すいません///」
「っ!(照れるとか反則だろおぉ!!!)」
「・・・・竹谷先輩?」


乱太郎の可愛さに悶えるこの姿も、またいつもの光景である。







END...
2012/8/13
修正:2013/04/07Pỏ惀
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