「らんたろう」





またあの人だ。





「らんたろう、」




また獣のように私の名を呼ぶあの声。




「らんたろう・・・・」



この声は嫌いじゃない。
むしろ大好きだ。
普段、元気で溌剌な声とは違った声。


けれども、この人がそんな声で呼ぶ意味が、小さかった私には理解できていないでいた。













「5年…ぶりですね」


ふと近づく気配に乱太郎は、くすりと可愛らしく笑う。


「・・・いつから?」


問い掛けられた相手は、「残念」とでも言った口調で隠れていた木からすたっと降りる。


「んー・・・私が、部屋から出る頃からですかね」
「何だ、完全に気配を立ったつもりだったのにな」
「ふふ・・・最初っから、そんな気なかったくせに。」


残念、と言っても相手はなんだか楽しそうで、橙色の髪をした少年もこれもまた楽しそうにクスクスと笑う。


「お時間は・・・」
「朝方に帰れば大丈夫だぞ」
「ふふ。なら、ここでお話しして行きませんか?」


ちょうど眠れなくて、仕方なかったんです。
と、縁側に座る少年に青年は、目を丸くしたかと思うと、人懐っこそうにニカッと笑い、豪快に隣に座った。


「相も変わらず豪快ですね」
「ん?ここではそうだが、外の世界に出れば違うぞ?」
「・・・そう、ですよ、ね」

歯切れの悪くなった少年に、青年は首を傾げる。
が、すぐにその意図に気がつく。


「・・・らんたろう、」



さっきまでとは違う声色に、乱太郎と呼ばれた少年は、はっと顔を上げた。



「あ・・・・・・、」
「乱太郎、今だったら、この意味分かるか?」
「っ・・・!」
「・・・泣くな、乱太郎」


少年の目尻からぽろぽろと流れだす涙を、青年は優しく拭う。


「忍びの世界に飛び出せば、人は皆(みな)変わる。」


私の同期だった奴らだって、皆そうだ。
皆、変わり行くものなんだよ、乱太郎。
立場上は違うが、お前だって5年の月日を得て、こうも変わった。
否、今はもう卵から成長した立派な忍者だが。


「けどな、乱太郎。これだけは言わせてくれ。」




深く息を吸って吐き青年は、高鳴る心臓を落ち着かせる。




「お前を「らんたろう」と呼ぶ時は、本来の俺が帰る場所だ」
「・・・・・・っせんぱ・・・こへいたせんぱ、い・・・っ!」




心から全身に、電気が伝わって行くのを感じた
幼かった頃の自分には分からなかった感情が、今になって浮き彫りになっていく。
いくら年を重ねも分からなかったこのモヤモヤとした感情と、彼が私を呼ぶ時の声色に、5年間疑問に思ってけれど。
今こうして全てが分かった。


私はこの人が好き、なんだと・・・・・。



「らんたろう、」
「はい・・・?」
「もう卒業したのならば、私と共に生きていこう」
「先輩、私なんかといいんですか?」


そう言った乱太郎に、またもや目を丸くしパチクリと何度もさせる。
まるで何を言ってるんだとばかりにの顔で。




「お前だからだ、乱太郎」





獣のように笑う彼に、私はゾクリとした。
それは恐怖から来るものではなく、私はこの人のものだという歓楽を覚えたんだ。



「放せと言われても絶対離すものか」
「それは、私にだって言えること。」



誰よりもお前を愛せる自信はあるんだ。
(それはお前を初めて見た時から変わらぬ想い)










END...
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